すでにあるものだけで実現するイノベーション
先月の記事で、企業の衰退を防ぐにはイノベーションが必須だということを取り上げました。
その中で、多くの人がイノベーションを何か新技術を発明・実用化して世に出すこと思っている傾向があるが、実際のイノベーションはもっと幅広い概念だということをお伝えしたのですが、今回は有名なイノベーションの事例を取り上げます。
取り上げるのは、アメリカのシアーズ・ローバック。時代としては少し昔の話ではありますが、やったことの原理は今でも応用ができる内容です。
シアーズはこのイノベーションで業績を上げ近代企業と変貌しました。
背景
イノベーションのきっかけとして、シアーズは当時のアメリカの農民が孤立した独自の市場を形成しているという認識を得ました。当時の流通チャネルでは到達できないという意味で孤立した市場、都市の消費者とは異なるニーズを持つという意味で独自の市場ということに気づいたのです。
そんな当時の農民は必要なものを卸売業者と販売員から購入していたようです。しかし、いずれも値段が高く、業者が暴利をむさぼっている状態でした。ゆえに、農民は信頼出来る正直な売り手を求めていたといいます。
シアーズはそんな市場に注目しました。
5つのイノベーション
そのような市場を獲得すべく、5つの領域でイノベーションを行いました。
- 商品開発…農民のニーズに応える商品のメーカーを見つけ育てる
- カタログ…商品を客観的に説明する定期発行のもの
- 売り手の危険負担…委細かまわず返金可能とし買い手に危険負担をさせない
- 発注工場…コストをかけずに注文をさばくことができる工場
- 人間組織…やろうとしている仕組みをまわすことができるスキルを持った人材
自社の経営にいかすためのポイント
1つ目のポイントは、背景で書いた「農民が孤立した独自の市場を形成しているという認識」です。すでに起こっているけど、まだ誰も気がついていないことを知覚したところからスタートしたということです。その上で、「顧客は誰か」を明確にし、「顧客にとっての価値は何か」を考え抜きました。
2つ目のポイントは、新しいものは何も生み出していないということです。厳密に言うと、すでにあったものを、顧客に価値を提供できるように改良しました。カタログや通信販売という仕組み自体は当時すでに存在していました。シアーズが発明したわけではありません。例えばカタログ。当時は卸売商が自身の商品を販売店に紹介するために使っていました。それを一般消費者である農民が見て選ぶために改良したのです。
再度のイノベーション
シアーズは前述のイノベーションを成功させ事業を拡大しましたが、後に再度の大転換を行います。通信販売から店舗販売へ主軸を移しました。これも、世の中の状態を知覚したところからスタートしました。
しかし残念ながら、シアーズは2005年にKマートと統合し、2018年に経営破綻してしまいました。Amazonなどの台頭により経営が悪化したことが原因と言われています。もしかしたら再度通信販売への転換を早期に行っていたら今も生き残っていたかもしれませんね。
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