高校生も実践できたマネジメント
10月21日(土)に岐阜県の高山市でドラッカー学会高山大会が開催されました。数年ぶりに秋の地方大会に参加して来ましたので今回はその内容をお伝えしたいと思います。
実践報告
まずは、現地のマネジメント読書会参加者による実践報告です。実践の概要は次のとおりでした。
有限会社オートボディーツタ
自動車の板金業をされている会社です。車の安全性向上や道路事情の向上などが要因で自動車事故は減少傾向です。そのため、事故車を修理するという板金業のメインである仕事が減っているそうです。
そんな中、自社のミッションを再考され次の様に定義されました。
私たちの知識と技術でお客様の「もっと長く、もっと大切に」に貢献する
これをもとに事業を再検討し、防錆コーティングの商品化に成功されました。その結果、全国から依頼が来るようになったそうです。
有限会社こすぎACT
社名からは想像しづらいですが、仏壇仏具屋さんです。
創業以来自社を育ててくれた商店街を何とかしたいという思いで様々な取り組みをされてきました。そのひとつとして、商店街のミッションを考えたそうです。その結果、商店街は信頼とコミュニケーションを築くことが使命だと定義します。
加えて、元々商店街の顧客は大人と想定していましたが、子供も顧客になり得ることに気づきました。商店街は子どもたちが思い出を作ることができる場所になります。
ミッションを考え、顧客を再定義した事例です。
また、お話の中で印象に残ったのが「自分たちが居る場所を価値のあるものにしなければならない」という言葉でした。これは、商店街に限らず、あらゆることに当てはまるのではないでしょうか。
日進木工株式会社
創業70年をこえる家具屋さんです。
飛騨の伝統家具を継承しつつ、新しい取り組みとしてウイスキー樽の製造を始められました。家具とウイスキー樽、もちろん共通点は木材の加工です。
家具製作で培った技術を樽製造に適用することで、一般的な製造方法とは違う、家具の曲げ木の技術を使った製造方法を確立されました。自社の強みを活用した多角化の例です。
滋賀県の蒸溜所にも納品予定らしいので楽しみです。
講演
続いて3名の先生による講演でした。
1人目はドラッカー学会共同代表理事である佐藤等氏。今回のテーマである文化とマネジメントについてのお話でした。中でもドラッカー教授の次の引用が新鮮でした。
マネジメントは個人、コミュニティ、社会の価値、願望、伝統を生産的なものとしなければならない。そもそもマネジメントが、それぞれの国に特有の文化を活かすことに成功しなければ、世界の発展は望みえない。
P.F.ドラッカー「すでに起こった未来」
普段、お客様の組織づくりにマネジメントを使っているため、文化との関連は考えたことがありませんでしたが、ドラッカー教授自身も言及していたのですね。
イノベーションは強みという継続性とイノベーションの機会が合わさって初めて可能となります。この強みという継続性こそが文化と言えるのかもしれません。
2人目は精神科医の益田大輔氏。精神科医でありながら、市議会議員としても活動されています。加えて、演劇をされているのも個人的には興味がそそられる点でした。
お話の中で一番印象に残ったのが、ディスアビリティとインペアメントの話。いずれも障害という意味らしいのですが、ディスアビリティは周囲の環境に起因するもの、インペアメントは自身の能力に起因するものというニュアンスらしいです。
例えば、車椅子の人がホテル3階の宴会場に行こうとする場合、車椅子がゆえに階段を上がれません。その解決方法として、エレベーターを使うのがディスアビリティからのアプローチ、リハビリをして歩けるようになるのがインペアメントのアプローチです。
これって、組織における人材の活用も同じじゃないでしょうか。組織において成果があがらない人、仕事ができない人がいた場合、ほとんどの場合、その人に能力がないことが原因だとしてしまいます。そのため、研修などで能力を向上させようとします。もちろんそれ自体は間違いでは無いのですが、これってインペアメントの視点でしか見ていないと言うことになります。もしかしたら環境の方に要因がある、つまりディスアビリティの視点で見ると、もっと別の解決方法があるかもしれません。
3人目は長野県松本市でアンティーク家具の販売や、店舗の内装プロデュースをされている株式会社VCの代表取締役、斧隆幸氏。
自身でヨーロッパにアンティーク家具を買い付けに行き、輸入し修理して販売されています。その過程で磨かれたアンティーク家具を見る目が認められ、戦艦三笠の艦長室の復元という大仕事を任されたそうです。
まさに卓越性を認められた好事例と言えるのではないでしょうか。ご本人いわくその卓越性の源泉は「探究心(好奇心)+行動」だそうです。
飛騨高山高等学校発表
個人的には今回のメインコンテンツとも言える、高校生によるマネジメントの実践報告です。ドラッカー教授の『イノベーションと企業家精神』を読み、街に出てフィールドワークをされました。
まず、イノベーションの7つの機会のひとつ目である予期せぬ成功・予期せぬ失敗を探しに商店街でヒアリングをされたそうです。次に、ドラッカーマネジメントにおける事業の定義を学び、地元企業を回って、各企業の事業をヒアリングして定義に当てはめてシートにまとめるということをされました。
その結果を当日発表されたのですが、まずイノベーションの説明がわかりやすい!
当日の発表資料と音声をそのまま教材としてほしいくらいでした。おそらく、普段からマネジメントについて語っている私たちが話すよりも伝わりやすいんじゃないでしょうか。
それに続くヒアリングの結果もすばらしかったです。特に企業にヒアリングして事業を整理したシートの出来が想像以上でした。もちろん、欠けている点や荒削りの部分はありましたが、社会や企業を知らない高校生が一から勉強して辿りついた成果物としては十分すぎる内容でした。ヒアリングを受けた会社の経営者さんたちも口を揃えて、社員教育に使いたいのでシートが欲しいと絶賛でした。
まとめ
久しぶりのドラッカー学会でしたが、刺激の連続でした。
マネジメントは難しいと思われがちです。しかし高校生が学んで実践して成果をあげています。
私たち大人もうかうかしてられませんね。
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