人材を育成する~マネージャーの5つの仕事⑤~
以前の投稿で、管理職・リーダーがやるべき仕事としてマネージャーの5つの仕事を取り上げました。
今回は5つの仕事の五つ目、人材の育成です。
マネージャーは自分自身を含めて人材を育成する必要があります。しかし、最初に抑えておくべきは人材育成という言葉の意味です。
人が人を育てることはできない
ドラッカー教授は著書で次の様に書いています。
成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うことなどということは法螺にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈中〉』
一般的に人材育成という言葉には、会社が従業員を育てる、上司が部下を育てるというニュアンスで語られます。しかし、他者が人を育てるということはないとドラッカー教授は言います。
人材育成は自己啓発、自己開発によって自ら行われるものです。では、マネージャーの仕事である人材を育成するとはどういう意味なのでしょうか。それは、自分自身の自己開発と同時に、メンバーの自己開発を支援するということです。部下を育てるのではなく、部下が自ら育つことができるように、環境を整え、背中を押し、時には導くことがマネージャーの仕事なのです。
人材を育成するために知っておくとよいこと
具体的な支援方法以前に、人材を育成するために知っていた方がよいことをドラッカー教授はいくつも提示してくれています。その中からいくつか紹介したいと思います。
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。
P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]』
自己開発を促すためには、仕事そのものに働きがいを感じる必要があります。仕事に関して「もっとよくしたい」という気持ちが、自己開発につながります。そのためには、仕事において期待に応えようという気持ちになってもらう必要があります(責任)。そこで必要なものとして3つのことが提示されています。
ひとつ目は仕事そのものが生産的であること。生産性の低い仕事はやる気をそぎます。次に成果についてフィードバックします。自分の働きがどのような成果に貢献したかを知ることは動機づけに大きく影響します。最後に継続学習です。仕事ぶりや仕事の仕方を向上させることで、より多くの貢献ができる様になります。
働くことすなわち労働は人の活動である。人の本性でもある。論理ではない。力学である。そこには五つの次元がある。
P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]』
人は道具や機械とは違い、それぞれの背景があり人生があります。論理的ではなく情緒的でです。そのような人としての性質を知っておくことはとても重要です。ここで言及されている5つの次元は動機づけとコミュニケーションの時にもご紹介しました。
今日、従業員満足が関心を集めている理由は、産業社会において、もはや恐怖が動機づけとなりえなくなったからである。しかし、従業員満足に関心を移すことは、動機づけとしての恐怖が消滅したことによってもたらされた問題に正面から取り組まず、横に逃げているにすぎない。
P.F.ドラッカー『現代の経営〈下〉』
まず押さえておくことは、恐怖による動機づけは機能しないということです。それどころか、今日による動機づけをしようとするマネージャーは自らの無能を証明しているといっても過言ではありません。そんな中、従業員満足という概念が現れました。しかし、この概念も今ではエンゲージメントという概念に置き換わりつつあります。一方ドラッカー教授は一貫して、責任という概念を動機づけの根幹として挙げています。
組織は人を変える。否応なしに変える。成長させもすれば、いじけさせたりもする。人格を形成させもすれば、破壊したりもする。(中略)
したがって、ばかばかしい間違いは避けなければならない。
第一に、不得意なことで何かを行わせてはならない。(中略)
第二に、近視眼的に育ててはならない。身につけさせるべきスキルはある。だが人を育てるということはそれ以上のことである。キャリアと人生に関わることである。仕事は人生の目標に合わせなければならない。(中略)
第三に、エリート扱いをしてはならない。
P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』
最後に、組織という存在は、そこで働く人の人生に大きく影響するということを知っておく必要があります。極端な話、ハラスメントなどで病んでしまい、その後の人生を歩むことが困難になったということも少なくありません。逆に、多くを学び、その後の人生が明るくなったということもあるでしょう。部下と接している一瞬一瞬がその人の今後の人生を左右するということを知りましょう。
その上で、ドラッカー教授の言う3つのことに気をつけましょう。ちなみに三つ目のエリート扱いをしてはならないというのは、人材育成を急いではいけないというニュアンスです。その人なりの限界に、その人のペースで挑戦させることが重要です。
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