明治の日本人は怠け者だった!?
このコラムは傍楽通信2014年6月号の記事をリライトしたものです
日本人は勤勉で働き者というイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、明治時代の日本人は怠け者だったと言われたらどのように思われるでしょうか。
外国人から見た日本人
明治初めの外国人の証言として次の様なものがあるそうです。
豊かな国だなんて、日本がそうなることを、われわれ(外国人記者)はとても想像できない。温暖な気候に恵まれているという自然条件が、唯一、日本に有利な点かもしれないが、怠惰で享楽を好むこの国の人々の性癖は、文明への進歩を妨げている。
さらに、1897年に九州の炭鉱を視察したフランス人、アンドレ・ベルソールは次の様に言っています。
ここの炭鉱労働者たちは、工場労働者たちと同じ様に怠惰で無頓着である。日本の労働者は、ほとんどいたるところで、動作がのろくだらだらしている。
さらにもう一つ、幕末期に来日したイギリス人画家、チャールズ・ワーグマンの風刺画に「Japanese at work」というものがあります。
この絵は大工らしき人たちが材木に腰をかけてたばこをふかしている姿を描いています。この絵に「仕事中の日本人」というタイトルをつけるというところがなんとも皮肉に満ちています。
これら3つはいずれも外国人から見た日本人の姿です。多くの日本人が抱く「日本人は勤勉でまじめ」という印象とはかけ離れていますね。では、なぜこのようなギャップが生じたのでしょうか。
キーワードは「時間」
その答えの手がかりとなる重要なキーワードが「時間」です。
当時、ヨーロッパ諸国ではイギリスを皮切りに産業革命により急速な工業化が進んでいました。産業革命は多くのものを人類にもたらしましたが、「時間」に対する考え方の変化もその一つです。
それまで人々はほとんどが個人や家族単位で働いていました。ところが産業革命を機に「組織」というものが発明され、人は一箇所に集まってみんなで働くようになったのです。そのため、時間というものがとても重要な要素になりました。毎日決まった時間に集まらないといけません。決まった時間に休憩し、決まった時間に帰り、さらには、一緒に働く人たちと作業のペースを合わすためにも時間を気にします。また、そもそも賃金が時間という単位で支払われるようなって行きます。ちなみに、時計が普及したのもこの時期だそうです。
一方、日本はどうでしょうか。この頃の日本はまだ工業化が始まったばかりです。まだまだ時間に対する感覚というのは江戸時代以前のそれと変わっていませんでした。
では、江戸時代以前の働き方はどのようなものだったかというと、時間ではなく仕事(タスク)中心のものでした。つまり、一つひとつのタスクをやり遂げることに注意を払っていて、それは様々な外部環境、例えば農業であれば自然条件などによって制約されます。関心を向けるべきなのはいかに成し遂げるかであり、時間ではなかったのです。
産業革命を経験し、時間に対するとらえ方が変わった西洋人と、旧来のタスク中心の働き方をする日本人。西洋人から見た日本人が怠け者に見えたのはこのためなのだと言われています。決められた時間きっちり労働することが当たり前になりつつあった西洋人から見たら、当時の日本人の働き方は怠けていると見えたのかもしれません。やがて日本も工業化を経て西洋人と同じ様に時間に対するとらえ方を変えていくことになります。
しかし、時代は変わり、現代に必要な働き方は人が産業革命で忘れてしまったタスク中心のそれではないでしょうか。P.F.ドラッカーが提唱したマニュアルワーカーとナレッジワーカーの話にも通じるところがあります。
もちろん、時間は重要ではないという意味ではありません。何をなすか、どのようになすかということに意識を向け、自ら考えてタスクを遂行していくという姿勢が大切なのです。
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