自己実現とは
このコラムは傍楽通信2014年10月号の記事をリライトしたものです
「自己実現」という言葉をご存じでしょうか。
おそらく皆さん目にした、あるいは耳にしたことがあるかと思います。では、「自己実現」という言葉の意味は一体どのようなものでしょうか。
自己実現という言葉
「自己実現」という言葉はもともと心理学の用語で、アメリカの心理学者であるマズローの欲求5段階説に出てきます。
欲求5段階説とは、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもので、その階層は低次から生理的欲求、安全欲求、所属欲求、承認欲求、自己実現欲求です。
人間はこれらの欲求を順番に満たそうとすると言われています。この5段階目に出てくるのが自己実現で、自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し活動したいという欲求です。自分の本来あるべき姿でいたいという表現もできるのではないでしょうか。ちなみに、マズローは後に6段階目として「自己超越」があるとしました。
さて、欲求5段階説の5番目にある自己実現ですが、一般的には自分の目的、理想の実現に向けて努力し、成し遂げることという意味で使われます。一方、天風会を創始し心身統一法を広めた思想家、中村天風氏は自己実現に関して次のように書いています。
「人間出生、本来の使命は、宇宙創造の原則に即応して、この世の中の進化と向上を実現化するという使命を持って生まれてきたのである。この使命の遂行こそ働くという行為であり、人間本来の面目というものである。このような使命の遂行感に基づく自己実現の実感、これこそが生き甲斐なのだ。」
つまり、天から与えられた使命を遂行することが働くということであり、そうして使命を達成していくことを自己実現と表現しています。広く一般的に使われている自己実現とは少し意味が違いますね。これは自己実現という言葉が生まれたアメリカ的な思想と、東洋的な思想の違いではないでしょうか。
アメリカンドリーム
アメリカンドリームという言葉を聞いて、皆さん何をイメージされますか?
「努力し、一生懸命働いた結果、富と名声を手にし、悠々自適な生活を送る。」
こんなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。いわゆるアメリカンドリームのイメージがアメリカ的な自己実現の象徴なのです。
自己実現そのものに関して、あるいは働くということに関して、そこには天から与えられた使命を遂行するという発想はありません。
東洋的な思想
一方、東洋的な思想ではどうでしょうか。
仕事という漢字を見ても「仕」も「事」も「つかえる」と読むことができます。また、昔は働きに出ることを「奉公に出る」と言いました。これは公に仕えるという意味ですが、例えば商家で丁稚として働く場合にも同様です。このような考え方は西洋にはないそうです。
こうして比較すると仕事観に大きな違いがあることがわかります。ベクトルが自分に向いているのか、他に向いているのかという時点で両者の違いは決定的です。
よく、「自己実現のために働く」という表現をします。このこと自体は間違いではないと思いますが、自己実現という言葉をどのように捉えているかが重要になってきます。アメリカ的な自己実現なのか、あるいは東洋思想に裏付けられた日本的な自己実現なのかです。もちろん、どちらが正しいとか、どちらが価値があるとかということはありません。
重要なのはどちらが日本、あるいは日本人に合っているか、自分に合っているかということです。
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